AI時代を生き抜くSEOとLLMO対策の真髄(株式会社メリル 代表取締役 中島大介氏)
今回は、Webメディア運営やオウンドメディアの構築、Webマーケティング支援、SEO/LLMO支援などを行っている株式会社メリルの代表取締役である中島大介氏に、20年にわたるSEOの経験、業界の大きな変遷、そしてAI時代に求められるLLMO対策(大規模言語モデル最適化)の重要性について、語っていただきました。
SEOを始めたきっかけ
── なかじさんがSEOを始められたきっかけは何だったのでしょうか?
中島大介氏(以降:なかじ):SEOを始めたきっかけは、「暇だった」からです。
大学1年生から一人暮らしを始めたんですけど、最初のうちは(大学が)つまらなくて、ほとんど大学に行かなかったんですよね。一人暮らしだったから、家にいても追い出されるわけでもなく、授業をサボって自宅で過ごしていました。
当時は2005年頃で、今のようなSNSやYouTubeが充実している時代ではなく、パソコンでネットサーフィンをしていました。すると、「ネットでお金を稼げる」という広告を見つけました。今でこそ”コテコテの広告”のように聞こえますが、当時はそれが最新の情報で、私にとっては大きな衝撃でした。インターネットでお金を稼ぐという発想自体がなかったからです。
その衝撃を受けて詳しく調べた結果、どうやらアフィリエイトというものがあり、SEOをすることで稼げるらしい、ということを知ったところから、私のSEOのキャリアがスタートしました。
── 最初からうまくいったのでしょうか?
なかじ:最初は全然稼げず、その状態が2年ほど続きました。
稼げるようになったきっかけは、師匠のような人にめちゃくちゃ怒られたことです。師匠と言っても直接会ったことはなくて、メールとかSkypeでやり取りするような人でした。
当時の私は、毎日記事を書いた方が良いと言われていたにもかかわらず、きちんと記事を書かず、その日の日付のWikipediaの記事をコピーして貼り付けたりしていたんです。それに対して「そんなんで稼げるわけないだろう」というメールが来ました。
「あなたがやらなければいけないのは、商品の良さや役に立つ情報を発信すること」「ブログで『書くことがない』と言っている人から、誰も商品やサービスを買おうとは思わないだろう」と指摘されたのです。
この指摘で私は「読んでくれる人のことを考えて、役に立つ情報を発信しなきゃいけない」と気づき、そこから大学時代にはSEOやアフィリエイトだけで、月に30万から40万円ほど稼げるようになりました。
SEO業界の変遷
── 当時のSEOと今のSEOは大きく違ったのですか?
なかじ:当時のSEOは今と全然違いますね。アルゴリズムが未熟で、脆弱でした。
何が一番違うかというと、運営している人の信頼性(E-A-T)が見られていなかった点です。誰が書いたか分からない記事でも、キーワードをたくさん入れたり、被リンクをもらうだけで、バンバン(記事が)上位表示されました。例えば「青汁」というキーワードで記事を書きたい場合、「青汁」というキーワードを何回使うといいか、といった単純なレベルでした。
── SEOやアフィリエイトをやってきた中で、最も印象に残っている出来事は何ですか?
なかじ:いくつかありますが、一つは2017年にあった「健康アップデート」です。
これはDeNAという会社が、Welq(ウェルク)というメディアを作ったことに端を発します。
DeNAはゲーム事業の売上変動が激しすぎたため、安定収益を得るためにメディア事業に目をつけ、iemoなど複数のメディアを数十億円で買収して、アフィリエイトメディアを一気に展開しました。
Welqは健康や病気に関する情報を扱うメディアでしたが、当時のSEOの仕組みを攻略し、質の低いライターに大量の記事を書かせ、(狙ったキーワードの検索表示の)上位を独占したのです。
問題だったのは、そのほとんどのキーワードがヘルスケア領域(健康系)だったことです。そして、質が低く間違った情報の記事を参考にした人が、健康被害を受けるという問題が起こり、社会問題にまで発展しました。
健康や命、将来に関わる領域(YMYL)は非常にセンシティブです。そのため、「ちゃんとした人が書かなければならない」という流れができて、(その事件の)1年後に健康アップデートが発動しました。
── 健康アップデートで何が起こったのですか?
なかじ:私のような個人レベルのアフィリエイトメディアは、上場企業や病院のような信頼性のある組織ではないため、根こそぎ検索結果から飛ばされました。月何百万という収益を上げていたサイトの売上がゼロになり、生活の基盤を失う人も出ました。この事件以降、SEOの難易度は完全に上がり、YMYL領域は個人での参入が厳しくなることに。信頼性が最重要視されるようになり、SEOがガラッと変わるタイミングになりました。
AI時代の衝撃とLLMO対策の真髄
なかじ:(もう一つ印象に残っている出来事は)AI(人工知能)です。2024年夏に出てきた、Googleの検索結果の最上部に表示されるAI Overviewも、AI登場による変化のひとつですね。
AI Overviewは、AIがユーザーの質問への回答を短くまとめて要約し、出力してくれる機能です。
──AI Overviewは、SEOにどういう影響を与えているんですか?
なかじ:これまでのアップデートはランキングの入れ替わり(検索表示で1位に表示されていた記事が100位に飛ぶ、など)でしたが、AI Overviewは検索結果の形そのものを大きく変化させたという点で衝撃的でした。さらに、AIの回答のみが表示される「AIモード」も採用されており、今後、検索結果そのものがなくなる可能性も指摘されています。
── このままSEOはなくなってしまうのでしょうか?
なかじ:SEOの定義によりますが、「なくなることはない」と考えています。
もしSEOの定義が「従来の検索結果で上位表示すること」に限定されるのであればなくなるかもしれませんが、(SEOの)定義自体が変わってきています。海外などでは「Search Everywhere Optimization(全検索最適化)」と定義し直し、検索エンジンだけでなくAI検索を含めた全ての検索に最適化していく流れがあります。
──では、これからのSEO対策では何が大切になってくるのでしょうか?
なかじ:AI検索に最適化するために、LLMO対策を行う必要性は出てくると思います。ただ、基本的な対策はSEOとLLMOで重複しており、これまでのSEO対策がきちんとできているのであれば、やるべきことに大きな違いはありません。ただし、対策するための「配分」は変わってきます。
LLMO対策で最も重要なのは、外部対策とブランド価値を上げることです。
従来のSEOでは、自分のサイト内にSEO向けのコンテンツを量産する内部対策に比重を置くことが多かったのですが、自社サイトに書かれている情報(例:自分の会社を「世界ナンバーワン」だと書く、など)は、嘘でも書けてしまうため、AIやGoogleは信頼性が低いと判断します。
AIに選ばれ、引用されるためには、第三者による言及が重要です。AIはネット上に拡散されている外部情報を拾い、信頼性を判断するからです。
── 外部対策の具体的な施策について教えてください。
なかじ:外部対策とは、SEOで言われる被リンクを獲得することのほか、サイテーションと呼ばれる外部での言及(自分の会社名やサービス名がネット上で言及されること)を増やしていくことです。つまり、どんどん(インターネット上に)露出を増やしていくということです。
また、AI時代にはエンティティ(Entity)が非常に重要になります。エンティティとは、AIが「これはこういうものだ」と認識できる人・物・場所のことで、AIはエンティティ間の関連性をもとに情報を引用します。ナレッジグラフで関連性が管理されていますが、自ら情報を発信しなければ、AIに認識してもらえません。
変わりゆくSEOに対する、面白さとは?
── 今後のSEO/LLMO対策において最も大切になってくることは何でしょうか?
なかじ:結局のところ、「どんだけやりきれるか」が勝負になります。
やらなければいけないこと(内部対策、外部対策など)は、ある程度分かっています。高い品質のコンテンツ、独自性やオリジナリティのある情報が良いことも分かっている。
しかし、それに対してどのくらいの予算や時間、リソースをかけて「やり抜けるか」が重要になります。当然ながら、やり抜ける方が強くなります。
── これだけSEOの変動が激しい中で、なかじさんはなぜ20年間もSEOを続けているのでしょうか?
なかじ:私はアフィリエイトやYouTube、FX、セドリ、ライターなど色々手を出してきましたが、唯一20年間ずっと続けているのがSEOなんです。
続けているのは、SEOを考えることや実行することが好きだというのもありますが、困っている人がめちゃくちゃ多いから、というのも大きいです。色んな人から相談をもらうことが多く、SEO業者による詐欺や悪徳な営業に騙されてしまう人も多いんです。
── 悪徳業者が多いのはなぜですか?
なかじ:騙すのが非常に簡単だからです。
SEOの実力があるかどうかを証明することは難しく、業者の実績は結局のところ自己申告になります。顧客はSEOの知識がないため、業者が「内部対策と外部対策をちゃんとやりました」と言っても、それが本当に実行されたのか、効果があったのかを検証する術がありません。結果的に順位が上がらなくても、「もっとやった方がいい」と追加の提案をされてしまうこともある。そこから私に相談がくるケースも多い。だからこそ、誰かが(きちんとした)SEOをやらなきゃいけない、相談をもらうなら自分がやるか、という思いがあります。
── なかじさんにとって、SEOの面白さとは何でしょうか?
なかじ:それは、コントロールできないところかもしれません。
「役に立つ独自性の高いコンテンツを作る」「社名やサービス名をたくさんネット上で露出させる」といった施策は、やった方が良いに決まっています。しかし、それをやったからといって、必ず(SEOが)上がるとは限らないところがあります。
施策を積み重ねた上で、それがアルゴリズムにマッチし、いつ評価されるかも分からないものがちゃんと評価された時、そこに面白さを感じます。難しさもありますが、それがパズルのピースのように変化していくような感覚が、SEOの醍醐味です。







